WTO交渉―再起動に向けた戦略を
漂流10年に及ぶ世界貿易機関(WTO)の多角的貿易交渉、ドーハ・ラウンドの早期妥結が断念された。
中国市場の開放をめぐる米国と中国の対立が根深いうえ、来年は主要国の選挙や政権交代に伴う「政治空白」から、進展は絶望的という判断による。
ただ、欧州危機の深まりで世界経済が減速するなか、自由貿易を進めるラウンド交渉の重要性はむしろ高まっている。
WTOは紛争解決など日常業務を通じて求心力を保つ方針だが、交渉の再起動へ戦略的な布石を打つことが必要だ。
世界各国はFTA(自由貿易協定)など個別の枠組み作りに、一段と傾斜しそうだ。
この流れが行き過ぎれば、市場として魅力に乏しいとみられる途上国が取り残されたり、経済のブロック化を招いたりする恐れがある。個々の枠組みを世界経済に資する形にするためにも、ラウンド交渉は不可欠だ。
日本は環太平洋経済連携協定(TPP)の交渉に参加する意思を表明した。TPPは貿易や投資で米国が望む高水準の自由化を掲げる。逆に、どの国にも拡張できる開放性には乏しい。
日中韓FTAの議論も動き出した。中国がTPPに触発されたのは間違いない。ここでは中国の市場開放が焦点になる。
日本は自らの市場を開放しつつ、それぞれの地域連携を国益に反映させなければならない。
同時に、二つの枠組みの結節点にある日本にとって、TPPにも日中韓FTAにも、世界に広がる普遍性をどう持たせられるか、そこにいかに貢献していくかが重要な課題だ。
それは、ラウンド交渉での米中の妥協点を探ることにもつながる。
戦後の貿易自由化は米国が引っ張ってきたが、リーマン・ショック後の多極化は、その構図が崩れつつあることを意味する。米国流の自由化一辺倒では世界の理解を得られない。
一方、中国はWTO加盟後の10年で驚異的な成長を遂げた。自由貿易の恩恵だけでなく、加盟に向けて断行された構造改革のたまものでもある。貿易や投資の自由化は中国が必要とする産業の高度化や効率化にとっても欠かせない。
国内に広大な後進地域を抱えることで、途上国並みの優遇を確保したいのだろうが、世界2位の経済大国が全くの途上国扱いでは通らない。
米中妥協への触媒の役割を果たせれば、日本にとってもメリットは大きい。これからの数年間が正念場だ。